はじめに

物件選びで失敗すると、その後すべてが苦しくなります。9年経営してわかったポイント全公開。
「お菓子屋を開業したい。物件ってどうやって探すの?」「家賃はいくらが妥当?」「居抜きとスケルトン、どっちがいい?」
これは開業を考える方の最大の悩みのひとつです。
私マロンは製菓店を開業して9年目。家賃6万円・13坪・物件取得費36万円のスケルトン物件から始めて、今も同じ場所で営業しています。
この記事では、9年経営してわかった「お菓子屋・ケーキ屋の物件選びのリアル」を全公開します。家賃の決め方・取得費の内訳・立地の選び方・設備工事の現実まで、ネットで調べても出てこない数字とノウハウを書きます。
これから物件を探す方は、最後まで読んでみてください。
結論:お菓子屋の物件選びは「3つの軸」で決める
先に結論を書きます。物件選びは次の3つで判断します。
| 判断軸 | 基準 |
|---|---|
| ①家賃比率 | 想定月商の10〜15%以内 |
| ②設備の改装コスト | 家賃以外に消える初期費用 |
| ③立地と業態の相性 | テイクアウト主体か・ギフト客層か |
特に大事なのは①家賃比率。これを間違えると、開業1年目から固定費に潰されます。
【公開】私の物件スペック・家賃・取得費すべて
参考までに、私のお店の物件情報を全部公開します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 広さ | 13坪(店舗4坪:厨房6坪) |
| 家賃 | 月6万円 |
| 物件取得費 | 36万円 |
| 物件タイプ | スケルトン(元事務所) |
| 契約形態 | 普通借家契約 2年 |
| 立地 | 田舎の駅近 |
| 駐車場 | 3台 |
地方の小さなテイクアウト中心の店なので、これだけのサイズで十分でした。
物件取得費36万円の内訳
「物件取得費って具体的に何にかかるの?」という方のために、私の実際の内訳を公開します。
| 項目 | 金額 | 補足 |
|---|---|---|
| 敷金(家賃3ヶ月分) | 18万円 | 退去時に原状回復費を引いて返却 |
| 礼金 | 0円 | 大家さんの好意で免除 |
| 仲介手数料(家賃3ヶ月分) | 18万円 | 事業用物件のため割増 |
| 保証金 | 0円 | 連帯保証人ありで免除 |
| 合計 | 36万円 |
事業用物件の仲介手数料は割増になることがある
居住用物件の場合、仲介手数料は法律で家賃の1ヶ月分までと決められています。
でも事業用物件(店舗・事務所)は別ルールで、3ヶ月分まで認められるケースがあります。これは知っておかないと「最初に予想したより多くかかった」となります。
開業準備で見落としがちな落とし穴です。
立地選びのリアル|商店街希望→駅近に着地した理由
私の物件探しは最初から駅近を狙ったわけではありません。実際の流れを正直に書きます。
最初は「商店街の近く」を狙った
開業計画を立てたとき、最初は「人が集まる商店街の近く」を探しました。お菓子屋は通行人の流入が大きいので、定石としてはこれが正しい。
でも、いい物件がなかった
商店街周辺の物件は競争率が高く、いいタイミングで空きが出ません。半年探しても出ない物件もあります。
コンビニ跡・チェーン弁当屋跡を検討
ある時期、コンビニやチェーン弁当屋の撤退跡地が空いていました。立地は最高。
でも条件が厳しかった。
- 家賃:20万円
- 物件取得費:100万円超
ランニングコストが私の事業計画と全く合わず、断念しました。
最終的に「田舎の駅近」に着地
最終的に決めたのが、今の物件。
- 田舎の駅近
- 物件前の通りの交通量が、田舎にしては多い
- 家賃6万円
- 物件取得費36万円
「妥協」ではなく「事業計画から逆算した最適解」だったと、今は思っています。
事業計画から逆算する家賃の決め方
ここが本記事の核心です。家賃は「事業計画から逆算」して決めるのが正解です。
私の事業計画
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 1日の想定売上 | 3万円 |
| 月の営業日 | 25日 |
| 月の想定売上 | 75万円 |
家賃の上限ルール
業界の鉄則:家賃は売上の10〜15%以内
| 家賃 | 月売上75万円での比率 |
|---|---|
| 7.5万円 | 10%(理想) |
| 11.25万円 | 15%(上限) |
| 20万円 | 26.6%(NG) |
私が当初設定した家賃上限は10万円。これに対して実際は6万円(売上比率8%)で契約できたので、超優秀な数字でした。
「家賃20万円」を諦めた理由
コンビニ跡(家賃20万円)を選んでいたら、売上比率は26%。ここに人件費・材料費・光熱費が乗ったら、利益は1円も残りません。
立地が良くても、固定費が事業計画を超えたら破綻します。
これが「立地より家賃比率」の原則です。
ライバル店が多い立地で9年生き残った3つの戦略
私の店の周りには競合が多くいます。
- 個人のケーキ屋:2件
- 和菓子屋:1件
- 大手チェーンのお菓子屋
「こんな激戦区で9年もよく生き残れましたね」とよく言われます。秘訣は3つあります。
①SNSは開店準備中から運用開始
オープン後ではなく、店ができていく過程をSNSで発信しました。
正直、フォロワー数は100人未満。それでも「お店ができていく過程を知っている地元の人」が、オープン直後に来てくれました。
②商品はお客さんの声で改善し続けた
開業前は「自信のある商品」を並べていました。でも、売れる商品とお客さんが欲しい商品は別物です。
オープン後、お客さんの声を聞きながら、人気のある商品を中心にラインナップを変えていきました。「作りたいもの」より「売れるもの」を優先するのがプロの仕事です。
③接客は妻が担当、私は厨房に集中
正直に書きます。私は接客が苦手です。
妻が接客上手で本当に助かっています。「家族経営」だからこそ、得意・不得意を分担できる。これも個人店の強みです。
居抜き・スケルトン・事務所改装の比較
物件タイプは3つあります。それぞれメリット・デメリットがあります。
| タイプ | 内装コスト | カスタマイズ性 | 改装期間 |
|---|---|---|---|
| 居抜き(前が飲食店) | 安い | 制約あり | 短い |
| スケルトン(何もない箱) | 高い | 自由 | 長い |
| 事務所改装 | 中〜高い | 自由だが工事多い | 長い |
私が選んだのは3番目「事務所改装」でした。事務所物件は「飲食店物件」より家賃が安いことが多く、コスト的にメリットがあります。
ただし、事務所→お菓子屋に変える設備工事が必要です。
事務所物件を改装するときの設備工事ガイド
私が実際にやった設備工事を公開します。事務所物件をお菓子屋にする方は必見です。
①電気工事:200V引き込み工事
業務用オーブン・冷蔵庫は200V電源が必要です。事務所には100Vしかなかったので、200V引き込み工事が必要でした。
これは見落としがちなポイント。電気容量が足りないと、業務用機器が動きません。
②ガス:プロパン
ガスはプロパンを使用。都市ガスより火力が強く、製菓向き。
③排水:シンクを大型へ交換
事務所のシンクは小さすぎたので、業務用の大型シンクに交換。排水管の太さや勾配もチェック必須です。
④換気:大型ステンレスフード設置
業務用オーブン・コンロは大量の熱と蒸気を発生させます。大きなステンレスフードを設置して、強力な換気環境を作りました。
これがないと、夏場の厨房は地獄です。
⑤床:コンクリート打ちっぱなし
事務所のフローリングを撤去し、コンクリート打ちっぱなしに。掃除しやすく、水回りに強い。製菓厨房の定番仕様です。
内見でチェックすべき7つのポイント
物件の内見では、次の7項目を必ずチェックしてください。
- 電気容量(100V/200V・アンペア数)
- ガスの種類(都市ガス・プロパン)
- 排水管の太さと位置
- 換気設備の状況(フード・ダクトの有無)
- 床材(フローリングか・コンクリートか)
- 入口・搬入口の幅(業務用機器が入るか)
- 看板を出せるか(外装工事の自由度)
これを知らずに契約してしまうと、改装工事が想定の倍以上かかります。
普通借家契約 vs 定期借家契約
契約形態は2種類あります。
| 項目 | 普通借家契約 | 定期借家契約 |
|---|---|---|
| 更新 | 原則自動更新 | 期間満了で終了 |
| 立ち退き | 大家側から立ち退かせにくい | 期間満了で立ち退き |
| 家賃 | 普通 | やや安いこともある |
私は普通借家契約・2年を選びました。
理由は単純で、自動更新で長く使えるため。お菓子屋は内装に大金をかけるので、簡単に引っ越せません。普通借家契約を選んだのは正解でした。
【コラム】物件を借りずに「ネット販売だけ」で始める選択肢
ここまで物件選びの話をしてきましたが、実は「物件を借りずにネット販売だけで始める」という選択肢もあります。
お菓子の製造には自宅キッチンや間借り工房を使い、販売はBASEやSTORES、Amazonなどのネット販売プラットフォーム経由でやる方法です。
ネット販売だけで始めるメリット
- 家賃ゼロ・物件取得費ゼロ
- 立地に左右されない
- 初期投資が圧倒的に少ない
- 全国のお客さんに販売できる
注意:特定商取引法の住所表示問題
ただし、ネット販売を始めるとき「特定商取引法に基づく表記」で住所を公開する必要があるのがネックです。
自宅住所を公開するのは抵抗があるという方も多いはず。私自身も妻と子供がいるので、もしネット販売を自宅でやるなら住所公開はためらいます。
解決策:バーチャルオフィスを使う
こうした場合に便利なのがバーチャルオフィスサービス。月額1,000円〜で住所だけを借りられて、特定商取引法の住所表記に使えます。
個人事業主・ネット販売を始める方に人気なのがNAWABARI。月額1,100円という安さで、BASE等のネット販売プラットフォームと連携実績もあります。
「いきなり物件を借りるのは怖い」「まずはネット販売だけで様子を見たい」という方は、この選択肢も検討してみてください。
物件探しの進め方と期間
物件探しは、こんな流れで進めるとスムーズです。
- 事業計画を立てる(売上想定・家賃上限を決める)
- エリアを絞る(住居・通勤距離・市場性)
- 不動産屋に相談する(事業用物件専門が望ましい)
- 複数物件を内見する(最低5件は見る)
- 条件交渉(家賃・敷金・礼金・原状回復)
- 契約・引き渡し
期間は最低3ヶ月〜半年みておくと安心です。
まとめ
- お菓子屋の物件は「家賃・改装コスト・立地」の3軸で選ぶ
- 家賃は売上の10〜15%以内が鉄則
- 私の場合:家賃6万円・取得費36万円・13坪で開業
- 立地は事業計画から逆算して決める
- ライバルが多い立地でも、SNS・商品改善・分業で勝てる
- 事務所改装は設備工事の費用と知識が必要
- 契約は普通借家契約がおすすめ
物件選びは開業の最初の関門。ここで失敗すると、その後すべてが苦しくなります。逆に、ここを乗り越えれば9年は続きます。
この記事が、物件探しの参考になれば嬉しいです。
🍰 おまけ:お菓子の豆知識
最後まで読んでいただきありがとうございます。せっかくなので、物件にちなんだお菓子の豆知識をひとつ。
「シェフ」の本当の意味は「店主」じゃない
ケーキ屋やレストランの「シェフ」、料理長のイメージがありますよね。
実は「シェフ(chef)」はフランス語で「長」「リーダー」を意味する単語で、本来は料理に限らない言葉です。
「シェフ・ド・キュイジーヌ(chef de cuisine)」が正式に「料理長」の意味。私たちが日常で使う「シェフ=料理長」は、フランス語の省略形が一般化したものなんです。
物件の「店主」「オーナーシェフ」も、本来は同じ系統の言葉。語源を知ると、お店の見方がちょっと変わります。
――以上、9年目のお菓子屋店主マロンがお届けしました。


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